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2021.10.18

インタビュー | 髙橋 卓巳

話題のNFTショップ構築サービス「Mint」を生み出したスタートアップが仕掛ける、次の時代の価値連鎖とは

株式会社 Kyuzan

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昨今アートだけでなく、スポーツ、ファッション、音楽など身近な領域でその利用シーンが加速している「NFT(Non-Fungible Token=非代替性トークン)」。取引履歴を“鎖”のようにつなげるブロックチェーン技術は、ビットコインなどの暗号資産の出現を皮切りに、これまでの常識を変える爆発的な価値を生んだ。この技術にいち早く着目し、NFTを活用したアクティブユーザー世界一を誇るゲームや、NFTショップ構築サービスを手がけるのが、株式会社Kyuzanだ。NFTの秘めたる可能性、そしてブロックチェーン技術の応用による新たな価値の連鎖とは。Kyuzan代表・髙橋卓巳氏に話を伺った。

ブロックチェーン技術をもっと身近にする仕掛けを作る

—Kyuzanの事業概要と、会社設立に至った経緯を教えてください。

髙橋

株式会社Kyuzanは、2018年4月に創業したブロックチェーン技術に特化したスタートアップです。現在は、ブロックチェーンの技術基盤を提供したり、その技術を活用した自社サービスを複数展開しています。もともと私は、早稲田大学でコンピューターアーキテクチャーやビッグデータの研究をしていました。大学在学中にビットコインの存在を知って興味を持ち、個人でマイニングをはじめたことがブロックチェーン技術との出会いです。その後、世間がビットコインなどの暗号資産を中心に盛り上がっていた頃、「イーサリアム」の存在を知りました。イーサリアムは、ビットコインと並んで決済用の暗号資産の一種と思われることが多いのですが、実は決済の通貨のみならずプラットフォームのことを指します。イーサリアムは「スマートコントラクト(自動契約実行技術)」を用い、独自の分散型アプリケーションを開発することができます。その点に広がりを感じたことから、自分でもイーサリアムのプログラムを書き、どのようなサービスを構築できるかを模索したことが現在の自社の事業につながっています。

—ブロックチェーン技術は個人でも開発を手がけることができるのですね。

髙橋

開発ノウハウを知っていれば多様なサービスを実装することが可能です。ただ、自ら手を動かして開発する中で、あらためてユーザーがブロックチェーン技術を使いこなして活用していくことへのハードルの高さを実感していました。例えば、クラウドコンピューティングのシステムとして代表的なものにAWS(アマゾン ウェブ サービス)といった開発ツールがあります。AWSを使えば、サービス提供者は自社のサービスをゼロから開発するよりもスピード感を持って安く提供できます。けれど、現状はブロックチェーンに関してはそのようなサービスがほとんどありません。企業やクリエイターが何かしらのサービスをブロックチェーン上で作ろうとすると、時間もコストも非常にかかるのが実態です。だから弊社では、ブロックチェーン技術に必要なインフラを「レゴブロック」のように組み合わせて、必要なインフラを作ることができ

—現在のKyuzanの主力事業について教えていただけますか。

髙橋

現在のメインとなるプロダクトは、ブロックチェーン技術のインフラを作る「KYUZAN Core(キューザンコア)」です。同時に今弊社が力を入れているのが、そのKYUZAN Coreを導入して構築しているNFTを活用したサービスです。一つがブロックチェーンゲームアプリケーションの「EGGRYPTO(エグリプト)」、もう一つがNFTを販売する独自のショップが構築できるプラットフォーム「Mint(ミント)」です。

エグリプト ブロックチェーンや暗号資産(仮想通貨)等の専門知識がなくても楽しめるブロックチェーンゲーム「EGGRYPTO」(画像提供:Kyuzan)

— 特定の「ツイート」が高値で取引されるなど、クリエイターや著名人がいち早く活用し関心の高まる「NFT」ですが、そもそも「NFT」とはどのようなものなのでしょうか。

髙橋

NFTは、ブロックチェーンの技術を用いて「それ自体が唯一無二な存在であることを証明できることになったもの」を指します。主にデジタルアートや動画など、デジタルコンテンツに対して用いられることが多いですね。さらに詳しく表現すると、特定のコンテンツに対してその「もの」自体と、それが本物である「証明書」、そして誰から誰に渡されてどのようにやりとりされているかの「取引履歴」が一体になっているものです。3つが一体になっているので、流動性が高まり信頼性も担保できるという仕組みになっています。

— 国内外含めて、NFTの事例でイメージしやすいものはありますか。

髙橋

昨今の代表的な例は、アメリカのプロバスケットボールリーグであるNBA(ナショナル・バスケットボール・アソシエーション)の提供するNFTゲーム「NBA Top Shot」ではないでしょうか。ここでは、NBAの試合の度に試合で行われたスーパープレイの動画などをNFTのデジタルトレーディングカードとして販売しています。「NBA Top Shot」の販売高は1年弱で7億ドルに至るなど、これまでなかった価値を提供した例だと思います。

NFT NFTのトレーディングカードを販売する「NBA Top Shot」。数あるNFTショップの中でも最大級の取扱量を誇る(nbatopshotより引用)

世界観ごと表現できるNFTショップを。「Mint」の特色とNFTの次なる展開

Kyuzanでは、NFTの独自ショップを構築できる「Mint」を提供していますが、サービスについて教えてください。

髙橋

「Mint」は、ハイブランドやトップクリエイターなどのコンテンツを持つ方々が、独自の世界観を表現できるオリジナルのNFTショップを構築できるサービスです。NFTが取引できる「BASE」や「Shopify」と思ってもらうとわかりやすいかもしれません。

画面と仕組み オリジナルのNFTショップの開設することができる「Mint」。画像や動画だけではなく、音楽・3Dモデル・AR・VRなど幅広い種類のコンテンツのNFT化が可能だ。(画像提供:Kyuzan)

2021年4月にリリースした後、ライゾマティクスさんにCryptoArt(クリプトアート=NFT技術によって独自と証明されたデジタルデータのアート作品のこと)を販売するショップも開設していただきました。「Mint」というサービス名は「鋳造する、造りだす」という動詞から付けています。その言葉通り「mint NFT(=NFTを造りだす)」できる代表的なサービスになることを目指しています。

Perfume Mintのプラットフォームを活用し、ライゾマティクスと共同開発したNFTショップ。ライゾマティクスが保有する15年間分のデータを用いて生成された映像作品全5点が販売された。(画像提供:Kyuzan)

ー Mintのサービス提供に至った背景を教えてください。

髙橋

これまでも、既存のNFTのマーケットプレイスを利用すれば、自分の作品やコンテンツは誰でも出品することができました。NFTへの注目が高まるにつれ、NFTを発行したいクリエイターやアーティストも増えていて、マーケットプレイスの需要も高まっているように感じます。ただ、マーケットプレイスでは独自のショップは構築できず、他の作品と一律に並べられてしまいます。本当はクリエイターごとに独自の世界観や購入体験、また使用体験などのこだわりがあるはずなのに、それが表現できていなかったんです。一方、自分たちでショップをゼロから構築することも不可能ではありませんが、NFTの発行から管理までをすべて手がけるにはコストや莫大な手間がかかるため現実的ではありません。冒頭でもお話したブロックチェーン関連サービスを新たに構築するのと同じような課題ですね。そこで、独自のブロックチェーン技術を持つ私たちがバックエンドの部分を提供して、簡単かつスピーディーに自社のオリジナルのNFTショップを開設できるサービスを提供しようと思い、開発に至りました。

ー クリエイターやアーティストなど今後ますます活用の幅が広がるNFTですが、現段階で考えている次なる展開はありますか。

髙橋

NFTは基本的にデジタル上で成り立つ仕組みですが、物理的な存在のハードウエアとの組み合わせに対して大きな広がりを感じています。実はアメリカでは「Infinite Objects」という“NFTとセットで販売できるフォトフレーム”のようなプロダクトが非常に売れているんです。「NFTを持っていないと表示されないディスプレイ」のようなイメージですね。ハードウエアを介在させることで、新たな形のデジタルコンテンツの所有表現になり得る可能性が秘められているんです。

ビデオプリント infiniteobjectsより引用

ー デジタルで完結していたNFTが、物理的な存在として現実世界に現れるんですね!NFTの次の展開として興味深いです。

髙橋

そうですね。デジタル上の取引のみならず、ハードウエアをオプションとして選択できるような形での販売も、今後考えられるのではないかと思っています。現状では、NFTを購入したとしてもデジタルデータなので、WEB上でしか表示ができません。それに、WEB上で所有していたとしても自分自身が所有している感覚は非常に薄いんです。所有感が感じられないと、そもそもそれを購入したいという動機も少なくなってしまいますよね。その点で言えば、先ほどのフォトフレームはまさにその足りない点を埋めてくれる存在ですね。デジタルデータのNFTであったとしても、所有していないと表示ができないハードウエアの装置を作れば、所有している事実と所有感の両方を得られる。こうなれば、もっと多くの方にNFTに興味を持ってもらい、手に取っていただける機会も増えるかもしれませんね。

時間軸を超えるNFTが、新たな価値を作る

ー 今後、個人でもNFTに触れる機会がますます増えそうです。NFTが普及することによって、社会にどのような変化がおきると思いますか。

髙橋

NFTが普及すると「個人的な文脈づけが証明できる」ということの重要性が高まると思います。現状、物理的な「もの」やデジタルデータのやりとりは「誰が買ってどこで使ってきた」といった履歴は全く見えていません。けれど、ブロックチェーン技術が介在することによって可視化できるようになります。今後はそこに着目すべきではないかなと思うんです。

ー ものの「履歴」がすべて見える化されて、記録され続けるようになると。

髙橋

今はまだNFTが世に出てから2、3年しか経過していませんが、これが50年、100年と経っていくとその初期の作り手や発行主たちが亡くなっていきます。そうすると、その次の代の人々がNFTを受け継ぎますよね。そのような履歴がNFTを通じて残っていくことが、歴史の価値を発見していくという観点で非常にインパクトを与えると思うんです。例えるならば「織田信長の使っていた刀」が、“絶対に証明できるもの”として残り後世に引き継がれていくというイメージです。何か大きな可能性を感じませんか?

ー これまで把握できなかった「もの」のにまつわる経緯やストーリーが、途切れず受け継がれていくようになるのですね!

髙橋

その通りです。ブロックチェーン技術は、ある特定の人物やものに限らず、その“時代”を遡って探索する際にもさらなる広がりをもたらします。例えば、ゴッホは本人が亡くなってからそのクリエイションの価値が大きく評価されましたよね。でも、現代では「ゴッホ」という一人の画家に価値を見出していますが、実はゴッホの他にも評価されなかった同等の才能を持つ天才が、同時代に本当は10人以上存在していたのではないかという可能性もあるんです。今から歴史を遡り事実を確認することはできませんが、もしその時代からNFTが用いられたのならば、100年後でも歴史を遡って発掘できるようになるんです。つまり見つかっていなかった“残りのゴッホ”が発見できるということ。遺跡を発掘するように、特定の何かを評価できる土壌が出来上がってきたタイミングで、過去から堆積された価値あるものを発掘できることになるんです。それは、未だかつてない価値発見のチャンスをもたらすのではないでしょうか。NFTは個人間で高値で取引できるものだ、ここ数年のトレンドだから注目すべきだという捉え方だけではなく、もっともっと長いタイムスパンでの壮大な価値の可能性を社会に伝えていきたいと思っています。

ー さらなるクリエイターの価値の発掘にもつながっていくと思うのですが、現代のクリエイターも恩恵を受けられるのでしょうか。

髙橋

私はNFTを活用することで、現代のクリエイターの生み出すコンテンツもさらに面白くなると思います。10万、20万と大規模にファンを集めなくても1000人のファンで経済圏を回すことができれば、クリエイターが好きなことをやって生き続けられる可能性が生まれてくるからです。現状のクリエイターは、ある一定のフォロワーやファンはいてもマネタイズには至っていない人も多いんです。けれど、NFTを活用することでコアなファンにお金と引き換えに提供できるものが生まれれば、今後クリエイターの支援という意味でも一役買えるのではないかなと思います。

ー 幅広い点でロマンと可能性を感じます。最後に、髙橋さんがブロックチェーン技術を使って実現したい世界像を教えてください。

髙橋

過去の歴史を振り返ると、社会が変わる時はいつも何かしらの「秘密結社」からスタートしています。近くの誰かの家に集まり思想が強くなって、その思想がコミュニティの連帯感を生み、果ては大きなムーブメントになっていく。つまり、社会を変えていくには秘密結社をどう作っていくかということが重要だと思っています。社会を変えるイノベーションを起こすことも、クリエイターが伸び伸びと表現活動ができることもすべて、「最初の1000人の真のファン」、つまり小さいコミュニティを分散的に作り成長させるプラットフォームをどう作るかが肝だと思います。そしてこれはまさに、ブロックチェーンの本質と通じるものがあります。多様性を認められるコミュニティが独自の経済圏を構築して、そこでの経済活動や表現活動を行うことができる小さいコミュニティが分散して生存できる世界。私は自社の技術でそんな世界を一歩ずつ現実に近づけていきたいです。

※関連特集「デジタル社会を革新するブロックチェーンの可能性」はこちら

Text:大久保真衣

髙橋 卓巳

髙橋 卓巳

株式会社 Kyuzan Founder,CEO,Software Engineer,Rep. Director

ブロックチェーンスタートアップである株式会社Kyuzanを2018年に創業。東京大学大学院修士卒。早稲田大学ではプライバシー保護データマイニングと完全準同型暗号を用いた秘匿計算のビッグデータ分析への応用に関する研究に従事。在学中より個人でブロックチェーン開発に携わる。Kyuzan代表となった現在は、ブロックチェーンを活用した新たな経済圏の構築やクリエイターの価値発見を目指している。

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